2022.01.28

食品衛生法改正の7つの軸とペナルティを解説

「食品衛生法」は食品関係の職業に就く方や、特に実際に食品を製造する食品工場の関係者の方にとって重要な法律です。1947年公布の長い歴史を持つこの法律は、食品にまつわる大きな社会問題や動きがあるたびに改正されました。
そして2018年に公布された一連の改正も、すべて施行済です。今回の記事では食品工場関係者のみなさんに向けて、あらためて食品衛生法の概要と過去の改正の経緯、そしてすでに施行段階に入った改正の7つの軸について、わかりやすく解説します。

「食品衛生法」とは何か?はこちらの記事をどうぞ。

食品衛生法の過去の主な改正

公布から2018年の大幅改正までの、主な改正は森永ヒ素ミルク事件に関係したものとWTO(世界貿易機関)発足に対応したもの、そして食品安全基本法制定に伴うものです。

森永ヒ素ミルク事件に関係した改正

1955年の森永ヒ素ミルク事件が契機となり、食品添加物に関する条項を強化した改正が1957年に行われました。
この事件は森永乳業が乳製品の溶解度を高めて凝固を防ぐための安定剤として使用していた、第二燐酸ソーダに含まれている多量のヒ素により発生した大事件です。これを飲んだ1万3千人におよぶ乳児がヒ素中毒になり、130人以上の中毒による死者が出ました。
事態を重く見た厚生労働省は、食品添加物行政の大改革に手を染めます。1957年の一部改正に続き、1960年に第一版食品添加物公定書を刊行し、「成分」「製造」「保存」「表示」「使用」の5項目で厳格な規格基準を定めました。

WTOの基準に対応した改正

1972年、世界規模で食品公害や環境汚染の深刻化に対処する機関としてWTO(世界貿易機関)が発足しました。1995年に行われた改正は、WTOが打ち出す基準に対応したものです。
国際基準では食品だけでなく食品添加物や残留農、遺伝子組み換え食品なども対象となっており、日本の衛生基準もそれに歩調を合わす改正となりました。

食品安全基本法制定に伴う大幅改正

2003年には、食品安全基本法制定に伴って大幅改正が行われた。それまでの衛生上の被害の発生防止に留まらず、国民の健康保護という観点が盛り込まれます。また、食の安全に対する地方自治体の責務と食品関連事業者の責任が明確に定められました。
この食品安全基本法が制定されたのは、食品添加物や香料の不正使用、BSE(牛海綿状脳症)問題などが社会問題化し、また遺伝子組換え食品が登場した頃です。食をとりまく環境が激変する中で、食品の安全性を維持する目的をもって制定されました。

最新改正食品衛生法の7つの軸

2018年6月に一部の改正が公布されましたが、その趣旨は前回(2003年)から15年が経過し、食品を取り巻くさまざまな環境の変化やグローバル化に対応して食の安全を確保するためとされています。
この改正の軸は、以下の7つです。

  • 広域食中毒対策の強化
  • HACCPに沿った衛生管理の徹底強化
  • 特定食品による被害情報の届出を義務化
  • 食品用器具および容器包装のポジティブリスト制度導入
  • 営業許可制の見直しと営業届出制度の創設
  • リコール情報の行政への報告を義務化
  • 輸入食品の衛生証明を要件化

広域食中毒対策の強化

広域におよぶ「食中毒」の対策が強化されました。食中毒が広域的に発生するのを速やかに防止するために、国と地方自治体が相互に連携と協力を行うことが求められています。
さらに緊急の事態には、厚生労働大臣が協議会を活用した上で事案対応に取り組むことも定められました。これは、2017年に関東を中心として発生したO-157食中毒事件への教訓を反映しています。

HACCPに沿った衛生管理の徹底強化

HACCP(ハサップ)に沿った衛生管理を制度化しました。これは食品製造に関わる業者が、食の安全性を確保するための衛生管理手法です。この手法は事故発生時の早期原因究明や食品事故防止に役立つので、今やグローバル・スタンダードとなっています。
日本では中小規模の事業者を中心に導入のスピードが遅いという現実の課題があり、義務化に踏み切られたのです。原則的にすべての食品関連事業者に、一般衛生管理に加えてHACCPに沿った衛生管理の実施を義務づけています。

特定食品による被害情報の届出を義務化

食品関連事業者に、「特別の注意を必要とする成分等を含む食品(厚生労働大臣が定める)」との関連が想定される被害が発生した際に、行政に対して詳細情報を届け出ることを義務づけました。
被害に関する情報を収集・分析することで、問題の食品を摂取した場合に起こりうる健康被害リスクの正しい情報を国民に届け、被害の拡大を防ぐ目的があります。

食品用器具および容器包装のポジティブリスト制度導入

食品用器具や容器包装について、安全性を評価した物質に限り使用可能とするポジティブリスト制度が導入されました。
それまでは使用を制限された物質でなければ食品用器具や容器包装に利用できる、ネガティブリスト制度です。改正により、安全性が確認された物質に限り使用できるというルールに変更されました。
食品衛生においては現在、食品だけではなく調理および販売の際に使用される容器や包装も考慮すべき流れになっています。

営業許可制の見直しと営業届出制度の創設

HACCPに沿った衛生管理の義務化を反映して、食品産業の実態や食中毒のリスクを踏まえ、営業許可が必要な業種の見直しを行っています。
また、2021年6月1日現在で「許可営業」と「届出対象外営業」に該当していない食品関連事業者の営業を届出制度にしました。
これにより、地方自治体は各地域にどういう食品関連事業者がいるのかを把握できるようになり、事業者への衛生管理に関する指導をさらに徹底して実施できるようになりました。

リコール情報の行政への報告を義務化

食品関連事業者に対し、リコール(自主回収)を行う際に自治体を通して国へ詳細情報を報告することを義務をづけました。届出情報の詳細は一覧にして厚生労働省のサイトなどで公表されます。
報告を義務化することにより、リコール情報をガラス張りにしたのです。消費者がそのページにアクセスすれば、現状でリコール対象となっている商品が確認できます。目的は食品による健康被害拡大を防ぐためです。

輸入食品の衛生証明を要件化

輸入食品の安全性を確保するため、輸入の要件として輸入食肉のHACCPに基づく衛生管理や、乳製品および水産食品の衛生証明書の添付を義務づけました。
一方、食品輸出に関しては輸出先国の衛生要件を満たすために、国 および自治体における衛生証明書の発行などの事務手続きを徹底的に履行することも定められています。

食品衛生法に違反した場合のペナルティ

食品関連事業者が食品衛生法に違反した場合には、段階的に行政指導を受けたり、行政処分や刑事処分のペナルティが科せられたりします。刑事処分は3年以下の懲役または300万円以下の罰金です。
通常は以下のような流れになります。

第1段階

衛生管理の状況に不備があることが発覚する

当局から口頭や書面にて改善指導が行われる

第2段階

改善が図られないまま営業は継続される

営業の禁停止などの行政処分の可能性

第3段階

行政処分に従わずに営業が継続される

懲役刑または罰金刑の刑事処分の可能性

このように、違反が発覚したとしてもまずは改善指導があり、それに対して改善のアクションをとって改善する徴候が見られるとペナルティはありません。
それが少しも改善を図るアクションに取り組まないまま営業を続けていて、一般消費者の健康被害につながるリスクが高いと判断された際は、営業の禁止あるいは停止という行政処分が下されます。
それすら従わずに営業を継続した場合には、刑事処分が下される可能性が生じるのです。つまり、よほど悪質な場合にしか適用されません。
食品衛生法の第11章の第71条から第79条に書かれている罰則規定の対象となる違反行為を、わかりやすい言葉で紹介します。

  • 健康被害のリスクが高い食品あるいは食品添加物を販売するなどの行為
  • 罹病している家畜を使用する行為や未承認の食品添加物を使用する行為
  • 安全性が未確認の食品や問題が認められて販売禁止になっている食品を販売する行為
  • 健康被害が想定される食品の廃棄命令に従わない行為
  • 公衆衛生上のリスクがある虚偽あるいは誇大な表示・広告を除去する指示に従わない行為
  • 営業禁停止処分を守らずに営業を継続する行為

このように、明らかに問題があると思える行為が処罰の対象となります。

引用

まとめ

国民を健康被害から守るための食品衛生法

食品衛生法改正の度重なる改正は、食品関連事業者に不利益をもたらすためのものでは、決してありません。国民を健康被害から守ることが第一です。その上で食品衛生基準を国際基準に適合させ、国際競争力を向上させるのも大きな目的となります。
食品関連事業に携わるみなさんは、保健所や関係外部機関の指導に耳を傾け、自社の食品に関連する施設の状況を食品衛生管理の観点から見直しましょう。そして自信を持って、安全な食品を提供できるように取り組んでください。

        

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