2025.07.11

再生農業とは?注目される理由やどのような取り組みがあるのか分かりやすく解説します

ここ最近、再生農業(リジェネラティブ農業)という言葉を目にしたり耳にするようになりました。

再生農業は食糧難や環境問題とも深い関わりがあるため、いま世界中で注目を浴びているのです。

この記事では、再生農業について基本的な概念や背景、具体的な取り組みをわかりやすく解説していきます。

再生農業とは?

再生農業とは、自然環境へのダメージを減らすだけでなく、土壌や生態系を再生してより良い状態へ回復させていく農業のことです。

リジェネラティブ農業とも呼ばれています。

特に欧米を中心として国際的な再生農業への関心が高まっています。国際的な食品大手がサプライチェーンの中に再生農業を取り入れたり、小売大手も再生農業への支援を始めています。

また、国際的な認証制度も本格的に運営されており、非営利団体も登場してきています。

「持続可能」ではなく「再生する」

持続可能という観点も重要視されていますが、再生農業は文字通り「再生する」農業であり持続可能とはまた意味が異なってきます。

サステナブル農業は環境への悪影響を最小限に抑えながら農業を続けられるようにするのに対し、再生農業は環境や生態系を再生してより良い状態にすることが目的です。

つまり、今ある状態の維持か、失われたものを取り戻すかの違いと捉えることができます。

なぜいま、再生農業が注目されているのか

気候変動への対策

農業は世界的にみて、耕起や化学肥料の使用でCO2を大量に排出しており、温室効果ガス排出源の一つと言われています。

耕起とは土を耕すことで、耕した時に土壌の中にあった炭素が大気中に放出されます。

この問題を解決するために再生農業の一種であるカーボンファーミングが注目されています。カーボンファーミングとは、耕さずに植物の根や被覆作物によって炭素を土に固定する技術です。

土壌回復のため

FAO(国連食糧農業機関)によると、地球の耕作可能な土壌のおよそ1/3が劣化していると言われています。

土壌が劣化すると、水を保てず、作物が育たなくなり、干ばつや洪水リスクも増加してしまいます。

世界の人口が増え続けるなか食料の生産量が減ってしまうと、食料問題につながります。そのため、食糧生産基盤を守るために土壌の再生が不可欠なのです。

参照:FAO『Healthy soils for a healthy people and planet』

肥料や農薬に頼らないコスト削減

ここ最近もそうですが、化学肥料や農薬は価格変動が大きく、原料高、燃料高の影響を受けやすくなっています。

土壌本来の力を復活させ、できるだけ薬品に頼らない農業を行うことによって、コストを減らすことが可能です。

自然に寄り添い収益性と持続性を保つことは環境と農業経営の両方を守ることができるため、再生農業はコスト対策にもなり得るのです。

どのような取り組みがあるの?

不耕起栽培

従来の耕起は、雑草対策や土壌柔軟化のために行われます。その際に土壌構造を破壊し、微生物や炭素を失わせることにもなります。

不幸期にすることで、土壌中の微生物、有機物、水分を保持することができ、自然構造を活用することができるようになります。

カーボンファーミングや機械の燃料などの省エネ化につながりますが、別途雑草対策や特殊な機械を使用することもあるため導入のハードルはやや高めです。

被覆作物

作付けしない時期にも畑に植物を植えて土壌を守る方法です。

冬季などの作物を育てない期間に、土が裸のままだと雨風で土が流出していきます。被覆作物を植えることで、土を覆い、土壌を守ることができます。

クローバーやライ麦などがよく使用され、雑草対策、栄養保持、土壌温度の安定化や生態系を守る効果に期待できます。

動植物との共生

動物・昆虫・植物といった生態系を利用して農業生産を行う考え方もあり、アグロエコロジーとも呼ばれています。

これまではどちらかというと、動植物を排除・管理する考え方が中心であったのではないでしょうか。再生農業では、動植物と共生することで自然の循環を活かし、安定的な生産を目指します。

生物多様性の保全に寄与することができ、生態系の中で農業を行うことができるようになりますが、害虫や天敵が増える点には注意が必要です。

微生物・堆肥による土づくり

良い土には細菌やミミズなど様々な微生物や生物が共存しています。

化学肥料などを利用した化学農法ではこれらの生物が破壊されてしまうため、微生物を育てることは土を育てることになります。

土を育て、土壌中の見えない生物の力を最大限に生かすというのも再生農業の取り組みの一つです。

土を育てることにより、作物が育ちやすくなり、病気や害虫への耐性を向上させることができます。

実際に行われている取り組み事例

アメリカの再生農業

アメリカでは実際に農薬や化学肥料を用いた従来の農業から、気象被害や収益の悪化を機に再生農業へ転換した事例があります。

不耕起栽培、被覆作物、多様な家畜の導入などを実践し、化学肥料ゼロでも安定した収穫量、土壌中の有機物増加など環境に良い結果をもたらしています。

特にGabe Brown(ゲイブ・ブラウン)氏がノースダコタ州に有する農場が有名で、彼はアメリカにおける再生農業の第一人者として知られています。

日本の再生農業

もちろん日本でも再生農業の動きはあります。

水田を利用した不耕起栽培や無農薬栽培、稲刈り後の雑草はそのまま残して自然のサイクルに任せるなど、取り組みが進められています。

土を耕さないことで微生物の生態系を崩さずに収穫量も安定させることができます。

他にも、鶏ふん・牛ふんといった家畜を活かした農業、飼料の自家栽培、土壌分析による有機物循環で土を守るといった取り組みが行われています。

認証制度

海外では実際に認証制度が設けられています。

アメリカのRegenerative Organic Allianceという機関のROCRegenerative Organic Certified)という認証制度は、有機・土壌・動物・労働を全て満たすという高水準の認証です。

他にもSavory Instituteという機関のLand to Marketという認証制度があり、こちらは放牧や土壌再生、畜産を中心にした再生度を評価します。

日本ではまだ認証制度が実装されておりませんが、企業や自治体がオリジナルの取り組みを始めています。

再生農業の課題

導入ハードルの高さ

再生農業を行うためには化学肥料や農薬を用いた従来の農業とは違う方法になるため、知識の吸収や専用の資材・機械の導入など、始めるためにはそれなりの準備が必要です。

また、再生農業は発展段階であり、従来の農業ほど慣れている方法ではありません。そのため収穫リスクや市場参入への不透明さなど、まだ見通しがつきにくい場面も多数存在します。

NPOや民間企業による再生農業の支援や、地域単位での再生型地域づくりの試みも始まっていますが、導入ハードルの高さが課題の一つです。

政策・制度の充実

日本では再生農業の認証制度がまだありません。

そのため、助成金や補助金など支援の対象になりにくく、農家にとっては何を行えば再生と認められるのか不明瞭ともいえます。

国や自治体で再生農業に対する取り組みを強化していく方針はあるので、このさき何らかの政策や認証制度が整うことは十分に考えられます。

まだまだ発展途上で解決すべき課題も多い再生農業ですが、今後、再生農業の考え方はより一般化していくのではないでしょうか。

まとめ

再生農業とは?注目される理由やどのような取り組みがあるのか分かりやすく解説します

再生農業とは、自然環境へのダメージを減らすだけでなく、土壌や生態系を再生してより良い状態へ回復させていく農業のことです。

気候変動・土壌回復ため・肥料や農薬に頼らないコスト削減など様々な問題を解決していくために再生農業は注目されています。取り組みとしては、不耕起栽培や被服作物、動植物との共生、微生物・堆肥による土づくりなどが挙げられます。課題もまだ残されており発展途上段階ですが、今後、再生農業の考え方はより一般化していくのではないでしょうか。 

キーワード

  • 再生農業
  • リジェネラティブ農業
  • 農業