SNSの利用はいまや当たり前ですが、消費者の商品の見つけ方や買い物方法もSNSとリンクし始めています。
これまでのようにECサイトへ移動して購入するのではなく、SNSを見ているそのままの流れで購入まで可能なモデルが世界的に広がっています。その中心にあるのがソーシャルコマースです。
この記事では、ソーシャルコマースについてその仕組みや海外における市場、日本での展望について解説します。
ソーシャルコマースとは、SNS上で商品を見つけてそのままSNS内で購入できる仕組みのことです。
TikTokやInstagramなどのプラットフォーム上で動画や投稿を見て気に入った商品をワンタップですぐに購入できるような仕組みになります。
従来は、SNSで情報を得てからECサイトへ移動して買い物という流れですが、ソーシャルコマースは全てをSNS上でシームレスにつなげることができます。
そのためユーザーの離脱が大幅に減り、衝動的な購買も起こりやすくなります。SNSや動画を見ることが当たり前の世代にとっては、SNSの中で買い物を完結させることはごく自然な行動なのです。
アメリカや中国ではすでにソーシャルコマースが一般的な消費行動として浸透しています。
アメリカではTikTok Shopの本格展開により、SNSから商品を購入する文化が急速に広がりました。すでに数十億ドル規模まで市場は成長しており、今後も伸びていくと言われています。
中国はさらに進んでおり、ソーシャルコマースはすでに生活インフラのような存在になっているとも言われています。
海外でソーシャルコマースが成長した理由はいくつかあります。
まず決済がスムーズな点が挙げられます。SNSアプリの中で支払い情報を登録してそのまま決済まで完了できるため、わざわざECサイトへ飛んでカートに入れて登録をして…という手間はなくなります。
さらに、AIによる精度の高いおすすめ機能によってユーザーが興味を持ちそうな商品がタイムラインに自然に流れてくる仕組みが備わっており、探さなくても偶然出会える買い物につながりやすくなっています。
また、特にアメリカではインフルエンサーの影響力が高く、個人の発信で消費者への購買を促す土壌も備わっています。そして、返品文化もあるためより気軽に買うことができるのです。
日本ではまだソーシャルコマースが本格的に普及していませんが、今後は普及する可能性がかなり高いと予想されています。
若い世代はSNSでの検索が当たり前で、動画を見てから商品を購入するという消費行動も珍しくなくなってきています。
また、InstagramやYouTubeなどがショッピング機能を強化し続けていること、TikTok Shopの日本参入も現実的になってきています。
海外に比べて日本の市場には慎重さがありますが、このような観点からソーシャルコマースが一般化する速度はペースアップしていくのではないでしょうか。
ソーシャルコマースと似た言葉にライブコマースがあります。
ライブコマースとは、リアルタイムのライブ配信を通して商品紹介を行い、その場で購入へ誘導する手法です。配信者が商品を試しながら視聴者に向けて魅力を伝え、視聴者は商品についてリアルタイムで質問をしたりすることができます。
リアルタイムでやり取りすることができ、臨場感があるのは強みですが、ライブ配信のための準備や話術など人材が必要になるという課題もあります。
ソーシャルコマースとライブコマースの大きな違いは、ライブの有無です。
ライブコマースはリアルタイムでの配信である一方、ソーシャルコマースは動画や写真の投稿から購入ができるため、時間や場所に縛られずにより手軽に商品の魅力を発信できます。
臨場感はやはりライブコマースの方が優れていますが、ソーシャルコマースでは投稿が残り続けるため継続的な売上に期待できます。また、ソーシャルコマースの方が参入もしやすくなっています。
アメリカではライブコマースからソーシャルコマースへの移行がすでに起きています。
ライブ配信は人員・時間・機材といったコストがかかり、視聴者数も安定しないため継続的な運用は簡単ではありません。
これに対してショート動画中心のソーシャルコマースは、制作が簡単で、SNSのアルゴリズムに合致すればいつでも拡散されて継続的な売上が期待できます。
このようにソーシャルコマースは効率性が高く、アメリカの小売企業はショート動画戦略にも力を入れ始めています。
海外のソーシャルコマース市場で特に強いのが以下の商品です。
どれも動画映えしやすく、短い動画でも商品価値を理解してもらいやすいという点が強みの商品群です。
例えば、スキンケアは使用前と使用後の変化のイメージが伝わりやすく、キッチン用品は使ってみた動画が面白く、動画1本で魅力が伝わる商品ほど売れやすいという傾向があります。
日本のソーシャルコマースの普及がなかなか始まらない最大の要因の一つは、SNS内で購入が完了しないという現状にあります。
海外ではTikTokでもInstagramでも、決済情報を登録しておけばワンクリックで購入することができ、配送状況の確認もアプリ内で完結します。
一方日本は、SNSからECサイトへ飛ばされる、ECサイトごとに登録が必要、支払い方法の登録が複雑などシームレスにつながらない状況が存在します。
日本は海外と比べて返品文化が根づいていません。買って失敗したくないという心理が強く、この点がソーシャルコマースの普及に大きな影響を与えています。
ソーシャルコマースは購入が簡単なゆえに衝動買いが起こりやすい構造となっていますが、返品手続きが面倒、迷惑をかけたくない、実物を見ないと不安という心理的な要因が衝動買いを抑制します。
アメリカでは返品文化が根づいているため、SNSでの即買いに抵抗はあまりありません。
日本市場におけるもう一つの大きな課題は、企業側の動画制作やSNS運用の体制が不足しているという点です。ソーシャルコマースは動画を中心に行われるため、商品紹介動画を作って発信し続ける体制が必要になります。
多くの企業が、社内に動画制作担当の人材がいない、店舗スタッフが動画に出る文化がない、環境が整っていないなど、多くの課題を抱えています。
特に日本の小売企業ではスタッフが顔を出して発信するという文化が弱く、店舗主導での発信がまだまだ未成熟です。
日本の小売店の業務の中に動画投稿が通常の業務に入ってくる時代が来るかもしれません。実際にアメリカではこの動きがあります。
特定のスタッフがTikTokやInstagramで商品紹介を行い、その動画がバズると全国から注文が殺到するというケースもあります。現場のスタッフがインフルエンサーになっているのです。
スマホで動画が簡単に撮れること、現場からの発信の需要が高まっていることなど、日本でも店舗スタッフがインフルエンサーになる日は近いかもしれません。
ソーシャルコマースの発展に伴って、商品開発の考え方も変わります。動画で見せたときに魅力が伝わるかも商品企画のポイントとして重要視されるようになります。
ソーシャルコマースが発展していけば、メーカーと小売企業が共同でSNS向けの商品やストーリーを作り込む流れが主流になっていくかもしれません。
単に動画を作るということではなく、商品企画やパッケージ、販促なども一体化したマーケティングが求められるようになります。既に売場で映えるかどうかは商品開発の一般的なポイントの一つですが、そこに動画映えするかどうかも加わるのです。
日本におけるソーシャルコマースが急速に伸びるタイミングは、SNS内決済のシステムが整備された時ではないでしょうか。
決済システムが整えば、同時にシームレスで買い物をすることができるようになります。そうなると普及が一気に加速する可能性はかなり高くなります。
Instagramではすでに一部導入されていたり、YouTubeも強化され続けています。そして、TikTok Shopが日本でも本格的に参入することで認知は一気に広がるはずです。
SNSが情報発信の場から、売場となる日も遠くはないでしょう。