2021年6月からすべての食品関連事業者に、原則として義務づけられた衛生管理手法がHACCP(ハサップ)です。義務とはいえ、どう対応すればよいかわからない方も多いでしょう。
今回の記事では、HACCPを理解するために誕生の背景やメリット、デメリットについて紹介します。その上で義務化に対応するための、導入時のポイントとサポート情報を解説しましょう。
「HACCP」とは何か?はこちらの記事をどうぞ。
HACCP導入には多くのメリットがありますが、デメリットもあります。HACCPの実践には、双方を客観的に認識しておく必要があるでしょう。
厚生労働省食品安全部監視安全課HACCP企画推進室による「HACCPの普及・導入支援のための実態調査」の一環で、HACCP導入のメリットについてのアンケートが行われています。
その結果を参考に、食品業界の現場の声からHACCP導入のメリットを見ていきましょう。HACCPを導入したメリットを尋ねたアンケートの回答の趣旨を、割合が大きい順に挙げておきます。
①従業員の衛生管理に対する意識向上がみられた:78.2%
②衛生管理について根拠があるアピールができるようになった:43.1%
③製造過程でトラブルが生じても迅速に対処できるようになった:37.7%
④事故やクレームが減少した:32.3%
以上の結果は全体が対象ですが、事業者の売上規模別、従業員数規模別でも分析されています。
それによると、以下のような傾向がわかりました。
①については売上規模別と従業員数別の双方において、すべての層でおよそ7割以上がメリットとして挙げられており、②③④については、売上規模・従業員数規模の小さい層でもおよそ3割がメリットと感じているようです。
つまり、従業員の衛生に対する意識向上の成果は明確に出ています。また、より現実的な効果であるアピール力向上やトラブル対応の精度、事故やクレームの減少に関しても、一定水準の効果は確実に現れているということです。
HACCPを導入する際に想定される、主なデメリットは以下のとおりです。
個々のデメリットを見ていきましょう。
HACCPには多くの書類作成が必要です。また衛生管理方法を実践している際にチェックすることが増えることもあり、その都度書類に反映させていく手間も増えます。
HACCPは管理の仕方をある程度自社の状況に合わせて決定できるので、導入する際にチェックリストを作ります。
導入後もずっとチェックが必要なため、たくさんの項目をリスト化し過ぎるとその後の管理が大変な作業になってしまうので注意が必要です。
HACCPを導入することでリスクは低減でき、それだけ安全性は高められます。それでも、リスクがゼロにはならないことを認識しておくことが必要です。
ある程度のリスクは覚悟したうえで、リスクの低減をねらいましょう。何かあった際には迅速かつ適切に、対処ができるようにしておくことが大切です。
HACCP導入のためには12の手順があります。そのうちの7つは7原則と呼ばれる最重要項目です。その概要を紹介しておきましょう。
HACCPを管理するためのチームを適切な人選にもとづき編成します。導入後チーム内で解決できないケースは、外部のコンサルタントや関連資料を参考にして解決しましょう。
原材料・賞味期限・レシピ・販売方法などを記載した製品の説明書を作成します。仕様には特にルールはありません。
製品が誰に向けられるもので、どのような用途で食されるのかを書き出してまとめます。
原材料の調達に始まり、一連の保管・製造・加工・包装・出荷に至るまでの流れをまとめます。製造時間や温度などのポイントとなる情報も記載しておくのが賢明です。
出来上がった製造工程図をリアルな現場の動きに合わせて確認し、実勢と異なる部分を修正します。
それぞれの製造工程に、どのような危害要因が潜んでいるかを洗い出します。危害要因には有害な微生物だけでなく、硬質異物や化学物質があるので注意が必要です。
手順6で洗い出した危害要因を、除去あるいは低減すべき特に重要な点を決定します。冷却や加熱殺菌、金属探知などです。
手順7で決定したCCPを管理するための、殺菌時間や温度などの基準を設定するプロセスです。この基準を常に維持しないと、安全を担保できなくなります。
CCPの達成状況を確認するモニタリング方法を設定します。対象は金属探知機の精度や冷却装置の温度、オーブンあるいは殺菌槽などの温度と時間などです。
管理基準に問題点が発生した場合に柔軟に修正できるように、あらかじめ改善方法を決めておきます。
HACCPが有効に機能しているのかを見直し、改善するための検証の方法を設定します。
それぞれの工程の管理状況を、記録して保存する方法を設定します。HACCPを実践している裏付けになると同時に、問題発生時には原因を追究する手掛かりとなるでしょう。
食品工場におけるHACCP導入時の、主なポイントを詳しく見ていきましょう。
食品工場でHACCPを導入するためには、衛生面からロケーションや周辺環境をよく把握しておく必要があります。たとえば周辺に飲食店がたくさんある場合はネズミや害虫の存在が予想できるので、施設内にネズミや害虫が入り込ませない対策が必要です。
ほかにもロケーションや周辺環境について、以下のような点を把握しておくのが賢明です。
これらのようなポイントを注意して対策や工夫を施すことで、HACCPの効果を発揮しやすくなるでしょう。
HACCPを食品工場に導入する場合に、動線計画がとても重要になります。食品工場というものはさまざまな設備がありますが、そのレイアウトが大切になるのです。
たとえば、従業員が仕事を開始する際に、「更衣室で着替え」「ゴミをエアシャワーで落とす」「作業に入る」というフローを想定した場合、どういう設備のレイアウトが最も効率的かを考えます。
無駄な動きがなく、更衣の次にエアシャワー、すぐに作業場に直結するレイアウトが衛生面での強化にもつながります。
そのような考え方で、あらゆゆ工程での従業員の動きを最適化できるレイアウトを検討しましょう。
食品工場にHACCPを導入する際には、他にもたくさんの注意ポイントが存在します。ドアノブやトイレなどの一般設備が汚染原因となる場合もあります。
そのため、以下のポイントに注意しましょう。
このように、きめ細かい対策を地道にとることで、衛生上の安全性は確実に向上します。
食品関連事業がHACCPを導入するために役立つ、サポート情報を紹介します。
HACCP導入による食品製造過程の衛生管理のレベルアップを促進するため、政府はHACCP導入に必要となる施設の整備に対して、税制優遇や金融支援などの施策を講じています。
支援内容は、通称「HACCP支援法」と呼ばれる臨時措置法で規定されました。この法律は繰り返される期限延長により、現在のところ2023年まで有効となっています。
指定認証機関から認定を受けた金融支援対象者は、日本政策金融金庫による施設整備に対する長期低利融資を利用可能です。
厚生労働省の公式サイトには、HACCPに取り組む際の負担軽減のため食品等事業者団体が作成し、内容を「食品衛生管理に関する技術検討会」が確認した業種別のHACCP導入の手引書が掲載されています。
非常に細かく業種分けされた上での丁寧なマニュアルなので、各業者にとって該当する業種の手引書は大いに参考になるでしょう。
以下のページからPDFファイルでダウンロードできます。
厚生労働省「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理のための手引書」
HACCPの導入にはハザード分析表やフローダイアグラム、OPRP/CCP管理表などの文書作成が必要となります。
Officeツールで作成することもできますが、文書の作成や修正を実行する際に、マンパワーの目視で整合性をチェックしなければなりません。それでは担当者の負荷が非常に高くなります。
文書作成に関連する業務効率化を行うため、HACCP文書作成に特化したツールの活用が有効です。「HACCP文書作成ツール」で検索すればいろいろとヒットするので、概要を精査して自社の状況と照らし合わせて検討しましょう。