ビジネス
卸売や商社は必要?不要論はもう古い?いま見直される卸売・商社の価値とは

デジタル化やECの発展により、メーカーと小売業が繋がることはいまや当たり前になりました。
そして、その流れのなか、「卸売や商社は、もう不要ではないのか」という不要論を耳にすることがあります。しかし、実際の流通の現場では逆の現象が起きています。
いったい流通の現場では何が起きているのでしょうか。この記事では、なぜ卸売・商社不要論が生まれ、なぜいま再評価されているのかを流通の現実から紐解いていきたいと思います。
そもそも卸売・商社とは
卸売とは
卸売とは、メーカーと小売の間に立って商品を供給する役割を担う存在です。
一般的には、複数メーカーの商品を取り扱う、小売の発注をまとめる、在庫を持ち欠品を防ぐ、小口やこまめな配送に対応するなどの機能を持っています。
単純に商品を流すだけではなく、需要と供給を安定させることでメーカーと小売双方の負担を軽減してきました。
商社とは
商社は卸売と似た役割を持ちながら、さらに広範囲の役割を担う存在です。
調達先の開拓や海外との取引、価格交渉や品質管理など商品に関してさらに一歩踏み込んだ取り組みを行っています。特に流通分野において、調達・供給・リスク管理を一貫して引き受ける役割を持っています。
卸売も商社も、私たちの暮らしを豊かにするために流通を見えないところで支えてきた大切な存在なのです。
なぜ不要論が出てきたのか

不要論が出た背景
卸売・商社不要論が語られるようになった背景には、時代の変化があります。
ECの普及、デジタルでの直接取引、コスト削減、スピード重視の経営など時代に合わせて価値観は変わります。
特にアメリカではAmazonの登場により、中間業者を通さない流通が成功モデルとして広く認識したため、日本でも卸売・商社は不要になるのではないかという議論が加速しました。
中間業者のない流通
中間業者がない流通とは、メーカーが直接小売に販売する、あるいはECで消費者に直接販売するといった形式のことを言います。
理論上では、中間マージンが不要でコスト削減になる、意思決定がはやいといった大きなメリットがあります。
実際、規模が限定されていて商品点数が少なく、需要が比較的安定している場合にはこのモデルがうまく機能することもあります。
しかし、それはあくまで条件が整った場合に限られ、流通全体を支える仕組みとして考えたとき、中間業者を完全に排除することには想像以上の難しさが伴うのです。
中間業者なき流通の現実

卸売・商社を介さない流通を行った現場では、次のような問題が起こったと言われています。
- SKUが増えすぎて在庫管理ができない
- 欠品も過剰在庫も起きてしまう
- 発注・調整業務が担当者にしわ寄せしてしまう
- 需要の変動への対応が難しい
結果として、中間業者を介さない流通は実現できても現場が回らなくなるというケースが発生することがあり、むしろ負担が増えてしまいました。
利は元にあり
ここで一つ格言をご紹介します。
流通の現場では古くから「利は元にあり」という言葉が使われてきました。これは、目先の利益や価値だけを追うのではなく、取引の土台となる信頼関係や供給の安定こそが最終的な利益を生むという考え方です。
中間業者なき流通が注目された背景には、中間マージンを省けばその分利益が増えるという発想がありました。しかし実際はその考えが成り立たない場面も目立ちました。
マージンを省くということはできるかもしれませんが、その結果として欠品が発生したり供給が不安定になったりすれば、チャンスロスになります。
やはり全ては繋がっていて、目先の利益だけでなく、信頼関係や供給の安定という基盤をしっかり構築していく必要があると実感できます。
卸売・商社はただの中間業者ではない

こうした経緯で、卸売や商社の役割は再定義されつつあります。もはや単なる中間業者ではなく、流通を成立させるための機能を担う存在として、価値が見直されています。
変化のポイント
従来の卸売・商社は、価格や数量の調整を主な役割としてきました。
しかし現在では、それに加えて流通全体を俯瞰し、仕組みとして最適化する視点が求められています。商品を売ること自体よりも、「どう流すか」「どう支えるか」が重要になっています。
情報を活用する存在へ
流通の現場には、膨大なデータが存在します。
POSデータ、在庫データ、生産計画、物流情報など、その種類はたくさんあります。しかし、情報があるだけでは価値にはならず、それを整理し、意味を与えて現場で使える形に変換しなければなりません。
卸売や商社はこうした情報を横断的に扱える立場です。
小売とメーカー、物流の間に立ち、それぞれの事情を理解した上で情報をつなぎ、判断を支援する役割を担い始めています。
業務とリスクを引き受ける
卸売・商社の役割には、業務とリスクを引き受けるという点もあります。
在庫リスクの吸収や欠品時の調整、代替提案といった対応は、システムだけでは完結しません。状況に応じた判断と責任の所在が必要になってきます。
卸売や商社は、こうした不確実性を引き受けることによって、流通全体を安定させてきました。その価値は、需要変動が激しく、人手不足が深刻化する現代において、むしろ高まっていると言えるのではないでしょうか。
卸売・商社の今後

流通インフラとしての役割が強まる
今後、卸売や商社は単なる「取引先」ではなく、流通を下支えするインフラとしての性格を一層強めていきます。
流通において最も重要なのは、安定して商品が届き続けることです。価格が多少変動しても、供給が途切れなければ事業は継続できるはずです。しかし、供給が止まった瞬間に売場も機能を停止し、顧客の信頼も失われてしまいます。
卸売・商社は、こうした「止まらない流通」を実現するために、在庫、調達先、物流手段を複数所有することでリスクを分散してきました。
今後はこの役割がさらに重みを増すのではないでしょうか。有事や突発的なトラブルが発生した際、代替ルートを即座に確保して影響を最小限に抑える力が求められます。
その調整役を担える存在は限られており、流通全体を俯瞰できる卸売・商社の価値は今後も高まり続けると考えられる。
価格ではなく支援力で選ばれる時代へ
これから重要になるのは、「どれだけ安く仕入れられるか」ではなく、「どれだけ現場を支えられるか」という視点です。
流通の現場では、人手不足や業務の複雑化が深刻化しています。発注や在庫管理、調整業務にかけられるリソースは限られており、小売やメーカーは本来注力すべき業務に集中したいと考えています。
そうしたなか、卸売・商社に求められるのは単なる商品供給ではなく、業務そのものを支援する存在としての役割です。
例えば、需要を踏まえた発注支援や欠品リスクを抑えるための提案など、現場の負担を軽減する取り組みが重要になります。こうした支援を継続的に行える卸売・商社は、価格だけでは測れない価値を提供することができます。
取引関係も、単発の売買から長期的なパートナーシップへと移行していくと予想できます。流通を「一緒につくる存在」として信頼されるかどうかが、今後の選ばれ方を大きく左右します。
DX・GXの推進が必要
卸売・商社の今後を語るうえで、DX(デジタルトランスフォーメーション)とGX(グリーントランスフォーメーション)は避けて通れないテーマです。
DXの観点では、受発注や在庫管理といった業務を効率化するだけでなく、蓄積されたデータをどのように活用するかが重要になります。卸売・商社は、小売・メーカー・物流の情報が集まる立場にあるため、それらを横断的に分析して現場に還元する役割を担うことができます。
また、GXへの対応も今後ますます重要になります。環境配慮型の包装資材、物流の効率化によるCO₂削減、サプライチェーン全体での環境負荷低減など、卸売・商社が関与できる領域は広くあります。
DXとGXの両面に対応できる卸売・商社は、単なる中間業者ではなく、流通の課題解決を担う存在として、新たな役割と可能性を広げていくことになるでしょう。
まとめ
卸売や商社は必要?不要論はもう古い?いま見直される卸売・商社の価値とは
卸売や商社の役割はいま再定義されつつあります。もはや単なる中間業者ではなく、流通を成立させるための機能を担う存在として、価値が見直されています。
中間業者を介さない流通は実現できても、現場が回らなくなるというケースが発生することがあり、むしろ負担が増えてしまうと言われています。こうした経緯で、卸売や商社の役割は再定義されつつあります。従来の卸売・商社は、価格や数量の調整を主な役割としてきました。しかし現在では、それに加えて流通全体を俯瞰し、仕組みとして最適化する視点が求められています。商品を売ること自体よりも、「どう流すか」「どう支えるか」が重要になっています。